ウィスキー


2004年、ウルグアイ=アルゼンチン=ドイツ=スペイン制作。監督は私と同じ年生まれ(74年)だそう。
下高井戸シネマで再上映されてたので、行ってきました。


ウルグアイの小さな町で靴下工場を経営するハコボの家に、ブラジルから弟のエルマンがやってきた。古参従業員のマルタは、妻のフリをしてくれという雇主の頼みを受け入れる。
付け焼刃で夫婦を演じた二人だが、エルマンはお返しに彼等を海辺のリゾート地へと招待。三人の旅は静かに続く。



オープニングは、車高の低いらしいボロ車の中。建物がせせこましく並んで陽が当たらない通りをのろのろゆくんだけど、暗くて暗くて、でもさほど息苦しさは感じない。そして、車から降りた長身のハコボは、毎日朝食をとるカフェ(看板には「bar」の文字)で一言、「電気をつけてくれ」。主人はイスを持ってきて、頭上の蛍光灯をはめ直す。
見たところ大して明るくなってもいないんだけど、ハコボはパンを食べはじめる。彼のパンの食べ方は汚い。どのくらい食べようという意識もないらしく、適当に食べて適当に残す。
電気といえば、彼の経営する靴下工場も照明は蛍光灯のみ。スイッチを入れるとジーッと音がする。機械のスイッチを入れるとそっちもジーッ。女性従業員は気晴らしにラジオを入れる。「局替えていい?お喋りが面白いの」
ハコボは電気をすぐ消してしまう。マルタを家に呼んで部屋を見せてまわるんだけど、彼女が室内にいるうちに毎回電気を消してしまう。ようするに、あまりものを考えないタイプのようだ。


初老に差し掛かった三人のロードムービーですが、淡々と、でもわざとらしいほど色濃く、三人の個性があらゆるシーンに描かれています。


着たきり雀状態の兄に比べると、弟のエルマンはそれなりの洒落者で、伊達男。アタマが薄いのがいかにもそれっぽくて可笑しい。会話はあまりないけれど、兄弟だから、一緒にいるだけでいいのかな。兄のズボンは先が細くって、弟の革ジャンは肩がいかっている。
妻役を頼まれたマルタは、おそらく、華やかなデートなんてしたこともないような初老の女性。それがある日突然、男二人に挟まれてホテルに滞在するはめに。彼等が若くもカッコよくもなく、大して気もきかないというのがまたリアルで、彼女の心中を察してしまう…
ラストもえっ?というようなブチ切り方で、色々想像させられて、面白かったです。


「ウィスキー」というのは、ああそういう意味なのかと、みればわかる。かわいらしい映画でした。