オペラ座の怪人


19世紀末のパリ、オペラ座。ダンサーのクリスティーナ(エミー・ロッサム)は、プリマドンナ・カルロッタ(ミニー・ドライヴァー)の代役として初めて主役をつとめ、美しい歌声で人々を魅了した。その夜、これまでひそかに歌を教えてくれた“音楽の天使”を呼ぶと、鏡の中から怪人ファントム(ジェラルド・バトラー)が現れ、彼女を地下にある住処に誘う。仮面を剥いで天使の正体を知った彼女は恐れて逃げ出すが、ファントムは二人の絆を信じ、クリスティーナのために尽力する。



ミニー・ドライヴァーの歌姫カルロッタ良かったなあ。わがままで気分屋、ド派手なメイクと衣裳、なによりあのクセの強い地声(喋り声)がよくて(ただし、歌はキャストのうち彼女のみが吹き替え)。
映像としても、支配人たちが彼女をなだめすかして舞台にたたせるまでが一番面白かったです。メイク中に差し出されるチョコレートや犬、お輿で運ばれて、衣裳つけて(空からドレスが降ってくる!こういうのは映画ならでは)…その後に続く彼女主役の舞台をまるまる観たかったくらい。
クリスティーナを推すファントムには「もう盛りを過ぎた」なんて言われるけど、彼女の登場シーンは楽しかったし、ミニー自身の演技も上手かった。


いっぽうクリスティーナは、主役の初舞台後の騒ぎにも参加せず、友達のメグ(ジェニファー・エリソン/可愛い!優しそうだし、ファントムはこの子にしたらどうか、そしたらダブルデートできる(笑))には「天使がいる」などと気味わるいこと言うし、私からしたら全然友達になれそうもないタイプ。
エミー・ロッサムという女優さんは初めて見たのですが、屋上のシーンでケープがひん曲がってたり、ファントムの住処に向かう際に馬に乗るとき姿勢が傾いてたり、彼女の演技の問題じゃないかもしれないけど、もっとシャンとしてほしかった…


ファントムは…私、「オペラ座の怪人」は、昔両親に連れられて劇団四季のを一度観たきりなのですが、あんな色男が演じるのもアリなんだ。脚もすらっと長いしお尻もちっちゃいし(指はイモムシみたいだったけど)、回想シーンではやたらイイ身体してるし(あれはボディダブル?)、舞台ドンファンのシーンなんて、ゾロやってるときのバンデラスよりスマートだったよ。
(声はインパクトなくて、あまり私の好みじゃなかったけど。今ファンサイトみたら、ジェラルド・バトラーって、過去に弁護士兼バンドのボーカルやってたらしい)
仮面舞踏会に現れて皆にアドバイスする(「もっと勉強しろ」「もっと痩せろ」程度のものだけど)シーンは、彼にオペラの才覚があることをマダムのセリフ以外で表現してるってことなのかなあ?助言くれるなんて結構いいヤツじゃん、と思っちゃった。
ラウル子爵を演じたパトリック・ウイルソンは、無難な王子様ってカンジで、あっそうだ、クリスティーナがファントムからもらったバラを落としてゆくところで「ガラスの仮面」最新刊を思い出してしまった。さしずめラウルは皆に「(昔の物語を演じるには)現代的すぎるのよねえ」と言われてた桜小路くんか(笑・彼もたしかに現代っ子ぽかったから)


ファントムは、皆に宛てた書面に「カルロッタの盛りは過ぎた」などと書くんだけど、じゃあクリスティーナが「盛りを過ぎ」たらどうするんだろう。もっとも彼女はカルロッタのようにキーキー言わず、家庭でも修道院でもおさまりそうだけど…いや、ファントムとの関係は、そういう社会的なこと、未来に続くこと…それがファントムの「闇」に対するラウルの「光」の世界か…なんて全く連想させないけど。
私は師弟の恋、濃ゆいつながりのある恋はしたくない。たんなる男と女の関係でいたい。そのへんが既に、芸術からかけ離れた人間ってことなのかな。いずれにせよ、こういう話(才能ある男性が才能を持った女性を見初めて導こうとする話)にふれると、つい山岸凉子の「黒鳥/ブラック・スワン」(天才振り付け師と結婚したバレリーナの話)を思い出してしまう。「オペラ座の怪人」も、見初めた相手を洗脳しようとしてるふうに思えてしまう(「ドンファン」のシーンのクリスティーナなんて、洗脳されかかってるようにしか見えなかった)。まあ正しいとか悪いとかじゃなくて、色んな愛があっていいと思うし(クリスティーヌを共有すればいいのに(笑))、でも、人間同士って、むずかしいなあ。


映画ならではといえば、オペラ座で働いている色んな人の様子が垣間見られたのも面白かったです。酒呑んでロープの番してるようなオッサンたちが、じつは一番健全だったりして。